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投稿日: 弁護士 徳山 紗里

家賃滞納状態で自己破産するとどうなる?退去しないでも現在の家を借り続ける方法は?

記事目次

賃貸住宅に住んでいて自己破産を検討中の方の中には、家賃を滞納している方も少なくありません。借金をなくして一からやり直したいけれど、家賃を滞納していると破産申立とともに住居を失うのではないかという不安から自己破産に踏み切れずにお悩みの方もいらっしゃることでしょう。
家賃を滞納したまま自己破産した場合、退去しなければいけないと思われる方もいらっしゃると思いますが、実際は現在の住居に住み続けられる可能性もあります。

今回は、自己破産における家賃滞納分の扱い、家賃滞納のまま自己破産した場合の退去の必要性、退去の時期や保証人への影響、自己破産の申立てから退去までの流れと注意点、自己破産前に家賃だけを返済する場合のリスクなどについて解説します。

自己破産における滞納している家賃の扱い

自己破産をして借金をゼロにするためには、裁判所から免責許可決定を受ける必要があります。免責許可決定とは借金返済の義務を消滅させる決定で、これを受けて初めて債務がなくなることになります。ただし、税金、婚姻費用、養育費などは、自己破産後も支払い義務が残ります。それでは、滞納している家賃は自己破産で免責を得られる債務に含まれるのでしょうか。

1.免責が決定すれば支払い義務はなくなる

自己破産申立時に滞納していた家賃は、免責が決定すれば、銀行や消費者金融などへの借金と同様に返済義務がなくなります。滞納していた期間の長さや金額の大小に関わらず、支払う必要がなくなるのです。

2.免責の対象は破産手続開始時の滞納分まで

自己破産により返済義務がなくなるのは、破産手続開始時に存在していた債務のみです。そのため、破産手続開始後に発生した家賃については、免責が決定しても支払わなければいけません。
裁判所は破産申立の書類を受理した後、申告内容を確認して、本当に支払不能状態にあるのか等を精査してから破産手続開始を決定します。つまり、裁判所に破産申立した日が破産手続開始日ではないという点には注意が必要です。
破産申立から破産手続開始までにかかる時間は、管轄の裁判所によって異なります。申立人の資産が少なく、破産管財人が選任されない同時廃止事件となった場合には申立から3日前後、破産管財人が選出される管財事件となった場合には申立から1週間程度が、破産手続開始までの目安と考えておきましょう。

3.賃貸契約に連帯保証人がいる場合は要注意

連帯保証人がいて主債務者が自己破産した場合、債務の返済義務は保証人に移ります。入居時に親や親族などに連帯保証人になってもらった場合、破産申立をする前に必ず連帯保証人に自己破産をする旨を報告しておきましょう。

4.生活保護受給者も家賃滞納で自己破産ができる

生活保護法で明確に禁止されているわけではないのですが、一般的に、生活保護費を借金返済に充てることは控えるべきだと考えられています。税金で賄われている生活保護費から借金を返済することで、受給者が「債務の返済を免れる」という、生活保護の目的から外れた利益を得ているとみなされるからです。
そのため、生活保護受給者が多額の負債を負った場合、債務整理として選択できる手段は自己破産のみとなります。自己破産時には滞納している家賃も債務として申請できるので、生活保護受給者であっても免責が決まれば滞納した家賃の返済を免れられます。

家賃滞納のまま自己破産した場合の退去の必要性

家賃を滞納したまま自己破産した場合、大家である貸主は家賃を受け取る権利を放棄させられます。そうなると、さすがに同じ場所に住み続けることは許してもらえないのではないかと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、実は、滞納している期間によっては退去せずに済むケースもあります。自己破産後の賃貸契約、退去の必要性について説明します。

1.貸主には賃貸契約を解除する権利がある

2005年の民法の改正により、「賃貸借契約において、借り主が自己破産した場合には貸主は退去を命じる権利がある」という趣旨の条文(旧民法第621条)が削除されました。ただし、家賃を滞納していた際は、「払うという約束で入居した賃料を払わなかった」という債務不履行を理由に、貸主は借主に対して賃貸契約の解除を迫ることが可能です。

2.家賃を滞納した期間により退去せずに済む場合も

債務不履行があったとしても、賃貸借契約おいては、貸主と借主の信頼関係が破壊されているとみなされないかぎり、契約の解除は認められません。賃貸借契約は、当事者間の信頼に基づく継続的な契約という特殊な面を持つと考えられているからです。滞納期間が1ヶ月であれば信頼関係が損なわれたとは考えにくく、債務不履行を理由に契約解除される可能性は極めて低いでしょう。
一般的には3ヶ月以上の家賃滞納で契約の解除が認められるケースが多く、破産申立時に3ヶ月以上の滞納がある場合には、引っ越しを余儀なくされるおそれがあると覚悟しておくべきでしょう。
また、複数回に渡り騒音やゴミなどの迷惑行為をしていた、ペット不可物件で隠れてペットを飼育していたなどの信頼関係を悪化させる要因がある場合、滞納していた家賃が少額でも契約を解除される可能性があります。

3.保証会社が家賃を支払っていても滞納扱いになる

自分は家賃を滞納していたが、家賃保証会社が家賃を立て替えていたため貸主への滞納はないというケースも少なくないでしょう。このようなケースでは貸主は損をしていないため、一見すると債務不履行に該当しないように感じられます。しかし、借主が賃料を支払うという契約には反しているため、家賃保証会社が立て替えをしていても、当事者間の信頼関係は破壊されているとみなされます。そのため、家賃保証会社が滞納分を支払っていても、その期間が長ければ退去を迫られる可能性は否定できません

4.公営住宅に住んでいた場合も契約解除となる

市営住宅や公営住宅に住んでいた場合も、自己破産申立時に相当期間の家賃を滞納していれば、退去を求められます。現在住んでいる公営住宅を退去した後に住める場所が思いつかないという場合は、役所の生活福祉課に相談するなど、早めに退去後の住居確保に努めてください。

自己破産の申立てから退去までの流れと注意点

「家賃を滞納したまま自己破産申立して、貸主に家の明け渡しを命じられてしまうと、自己破産をしても生活は立て直せないのではないか」という不安をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。破産申立をしてから現在借りている家を退去するまでの流れと注意点について説明します。

1.破産手続開始後、裁判所から貸主に通知が行く

裁判所が破産手続開始を決定すると、破産申立時に提出した債権者一覧表をもとに、債権者へ自己破産についての異議などを問う通知が送られます。家賃を滞納している場合には、貸主も債権者に当たるので、貸主に対しても通知が送られることになります。この通知を受けて、貸主は家賃を滞納している借主が自己破産を申請したことを知ります。

2.破産申立後から家の明け渡しまでの猶予

裁判所からの通知を受けた時点で、貸主が賃貸借契約の解除を申し入れる可能性があります。しかし、退去を迫られても引越し費用の工面や転居先が見つからないことから、すぐには応じられないという方も少なくないかと思います。
この場合、早急に貸主に連絡して現在の状況を説明し、家を明け渡せる予定日を伝えた上で、それまでの期間は引き続き住ませてもらえるよう交渉することが大切です。3ヶ月以上先の日付を伝えると、退去の意志があるのか疑われるおそれもあるため、明け渡し予定日は破産手続開始から1〜2ヶ月以内に設定することをおすすめします。
また、前述した通り、破産手続開始後に発生した家賃については免責の対象外となります。破産手続開始から退去までの家賃は支払う必要があるという点は、心に留めておきましょう。

3.家賃を滞納していても敷金は戻ってくる

賃貸物件に入居する際に支払った敷金は、退去時に部屋の修繕費用などを差し引いた残額が返還されるのが通常です。敷金は自己破産手続において債務者の財産とみなされる可能性もあります。しかし、東京地方裁判所をはじめ多くの地方裁判所では、敷金を債務者の自由財産(破産手続中も自由に処分することを認められた財産)としています。
そのため、自己破産をしても敷金の返戻金を受け取ることは可能です。家賃の滞納があった場合でも同様です。ただし、以下のような場合には、敷金の全額もしくは一部が破産管財人の管理下に置かれ、破産者が自由に使える財産ではなくなる可能性があります。

  • 住居用ではなく、店舗や事務所などの業務用の物件で家賃を滞納していた場合
  • 返戻金が99万円を超える場合

4.原状回復費用の支払い義務は?

破産手続開始前につけてしまった傷などが原因で発生した原状回復費用は、自己破産で債務として計上されます。そのため免責が決定すれば、支払い義務も消滅します。ただし、破産手続開始後に発生した原状回復費用は家賃と同様に支払い義務が発生します。

5.光熱費を滞納していてもライフラインは止まらない

電気、水道、ガスなどの光熱費についても、免責が決定すれば家賃と同様に破産手続開始前に発生していた滞納分の支払い義務が消滅します。ただし、水道に関しては上水道の使用料金は免責対象になりますが、下水道使用料金は免責の対象外で、自己破産後も支払い義務が残ります。下水道使用料金は行政が徴収しているため、税金と同様に扱われるからです。
自己破産手続中は使用料金が未納状態でも、ライフラインを停止してはいけないと法律で定められているため、生活できなくなるという心配はありません。(破産法第253条)。ただし、弁護士に依頼せずに自分で自己破産手続を行っており、かつ資産が少なく破産管財人が選任されずに同時廃止事件として手続が行われた場合、電力会社やガス会社に破産開始手続の通知が届かずにライフラインが止まってしまうおそれがあるため注意が必要です。

自己破産前に家賃を返済する場合のリスク

前述した通り、2005年の民法改正を受け、借主が自己破産したという理由のみで賃貸借契約を解除することは、法律上認められなくなりました。そのため、家賃滞納などの信頼関係を壊す要因がなければ、自己破産後も借りている家を退去する必要はないとされています。
「それなら、破産申立前に滞納している家賃を払ってしまえば退去せずに済むのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、自己破産前に滞納分の家賃のみを返済してしまうと、思わぬ不利益を被るリスクがあるため注意が必要です。具体的にどのようなリスクがあるのか説明します。

1.家賃のみ返済することは免責不許可事由に該当

引っ越したくないからと滞納している家賃のみを先に返済してから破産申立を行った場合、免責が認められない可能性があるので注意しましょう。特定の債権者に対して優先的に返済をすることは、免責不許可事由に該当するからです(破産法第252条1項3号)。破産手続は、全ての債権者に対して公正に行われる必要があります。そのため、債務者が一部の債権者に対してのみ優先的な返済を行うことは、固く禁じられているのです。

2.家賃滞納を隠して自己破産申立をした場合

自己破産の申立時には、債務者が作成した債権者一覧表を裁判所に提出する必要があります。このリストに滞納している家賃の情報を載せなければ、家賃滞納の事実を裁判所に隠すことができて、かつ家主に自己破産のことを知られずに済むのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、債権者一覧表に載せなかった債権については免責を得ることができず、自己破産後も支払いの義務が残ります。また、虚偽の債権者一覧表の提出は免責不許可事由に該当します(破産法第252条1項7号)。債権者一覧表への記載漏れも虚偽とみなされる可能性があるため、債権者一覧表は家賃の情報も含めて漏れなく正確に記載するようにしましょう。
免責不許可事由について詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしていただければと思います。

自己破産後も現在の家を借り続ける方法と注意点

自己破産後も現在借りている家に住み続けたい、仕事の関係上転居は避けたい、と希望される方も少なくないかと思います。破産で免責を得た後も現在の家を借り続けるための2つの方法と注意点を説明します。

1.家族や親族に家賃を支払ってもらう

破産をする本人が滞納している家賃を返済することは免責不許可事由に該当しますが、第三者に頼んで家賃を支払ってもらうことは免責不許可事由に該当しません。家族や親族など、滞納分を立て替えてくれそうな人に相談するとよいでしょう。
ただし、配偶者など同一世帯に属している家族に返済してもらう場合は、債務者本人の返済と同一視されるおそれがあるので、同居していない家族や親族に相談することをおすすめします。

2.貸主と話し合ったうえで破産申立後に家賃を返済する

破産申立前に特定の債権者に借金を返済することは禁じられていますが、破産手続開始後に自由財産の中から借金を返済することは禁止されていません。また、免責を得た後、法的に消滅した借金を債務者の善意で返済することも規制されていません。
そのため、破産手続開始後、もしくは免責後に滞納している家賃を返済するという約束をした上で、今後も居住させてもらえないか交渉する余地はあります。貸主には交渉に応じる義務はないため、断られる可能性もありますが、今までに築いてきた信頼関係により、応じてもらえる可能性もあります。自己破産を決意した段階で家主に謝罪するとともに、今後について相談してみるとよいでしょう。

自己破産後は賃貸住宅に入居できなくなる?

自己破産すると信用情報機関に事故情報が登録されるため、賃貸住宅への入居はできなくなると思われている方も多いようですが、全ての賃貸住宅の入居が困難になるわけではありません。自己破産後の転居先を探す場合に知っておきたい点について説明します。

1.自己破産後は家賃保証会社の審査が通りにくくなる

賃貸借契約を結ぶ際に家賃保証会社の審査が必須となる物件については、自己破産後に入居することが極めて困難だと考えられます。家賃保証会社の多くは、カード会社や銀行と同様に、シー・アイ・シー(CIC)や日本信用情報機構(JICC)などの信用情報機関に加入しているため、審査時に自己破産の事実が知られ、家賃支払い能力に問題があると判断される可能性が高いからです。
破産の情報が信用機関に残るのは5〜10年といわれているため、この期間は家賃保証会社の審査は通らないことを覚悟しておいた方がよいでしょう。

2.市営・公営住宅への入居は可能

市営住宅、公営住宅、UR賃貸住宅などは入居時に審査がないため、自己破産後、間もない時期でも入居が可能です。いずれも入居は抽選や先着順なので、自己破産を検討した時点で近くに入居可能な物件があるか調べておくことをおすすめします。

3.保証会社ではなく保証人が必要な物件への入居も可能

民間の賃貸住宅でも、家賃保証会社の審査が不要で、連帯保証人がいれば入居可能としている物件もあります。この場合、連帯保証人の支払い能力や関係性が重視されるため、親や兄弟などの近親者に保証人になってもらうことが望ましいでしょう。

まとめ

今回は、自己破産における家賃滞納分の扱い、家賃滞納のまま自己破産した場合の退去の必要性、退去の時期や保証人への影響、自己破産の申立てから退去までの流れと注意点、自己破産前に家賃だけを返済する場合のリスクなどについて解説しました。

自己破産後も現在住んでいる賃貸物件に住み続けたい場合は、貸主との信頼関係を壊さないように、自己破産の申立ての前に貸主に自己破産の意志を伝えて丁寧に謝罪した上で、交渉することが大切です。自分で交渉する自信がない方は、交渉のプロである弁護士に相談することをおすすめします。

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弁護士徳山 紗里 東京弁護士会
京都女子大学法学部卒、東京スタートアップ法律事務所入所。日本で唯一の女子大法学部を卒業し、卒業生で初の弁護士となる。